由比正雪 と 斎藤親盛  2

童門冬二の『老虫は消えず 小説大久保彦左衛門』(1994年10月30日、集英社発行)に、仮名草子の『可笑記』や作者の斎藤親盛(如儡子)が登場する。第5章「危険な書『三河物語』と『可笑記』」では、幕僚会議の中で、この2つの作品が取り上げられている。出席者は、井伊直孝酒井忠世酒井忠勝土井利勝松平信綱阿部忠秋堀田正盛柳生宗矩・中根正盛。

「ええ、今日は大久保殿の書かれた本が話題になるようです」
「おれの書いた本?」
「そうですよ。『三河物語』です。それと、いま市中で『可笑記』という本が読まれていましてね、この本がいまのご政道を鋭く批判しているというのです。そのために、大久保殿の書かれた『三河物語』が参考に持ち出されました。どんな議論をすることでしょう。・・・」

由比正雪の門人・丸橋忠弥の主宰する会、「たばこの会」は「謀反の相談をする会」で、なんと、この会に、斎藤清三郎・親盛も顔を出す。老中たちは、この『三河物語』と『可笑記』を、単に幕政に対する不平不満の書として受け止めず、危険なものを感じ取っていることなど、奥村八左衛門が幕僚会議の情報を伝えると、
「なるほど。私の愚書がそんな大事になりましたか。ご老中方の議題になるとは光栄のいたりです」
珍しく斎藤清三郎がそんな軽口を叩いた。座は笑った。

●近代作家が、仮名草子の『可笑記』を取り上げて、脚色し、血肉を付与している。童門冬二の、この小説を如儡子・斎藤親盛が読んだら、どんな感想をもらすか。私は、この近代作家に感謝している。

■■童門冬二『老虫は消えず 小説大久保彦左衛門』