世界最古の印刷物 ・ 百万塔陀羅尼経
●現存する世界最古の印刷物と言われる、百万塔陀羅尼経は、現在、日本に伝えられている。印刷されたのは、奈良時代である。
『続日本紀』宝亀元年(770)4月26日の条に、
「戊午、初テ天皇、八年ノ乱ヲ平グ。乃チ弘ク願ヲ発シ、三重ノ小塔ヲ一百万基造ラ令ム。高サ各四寸五分、基径三寸五分、露盤之下ニ、各、根本・慈心・相輪・六度等ノ陀羅尼ヲ置ク。是ノ功ノ畢ルニ至テ、諸寺ニ分置ス。・・・」
とある。『続日本紀』には諸寺に分置したとあるが、『東大寺要録』や『薬師寺縁起』には「十大寺に分置した」とある。十大寺とは、南都七大寺(大安寺・元興寺・薬師寺・東大寺・西大寺・興福寺・法隆寺)と四天王寺・崇福寺・弘福寺であろう。
●いずれにしても、百万の小塔を造り、その中に、4種の陀羅尼経を入れて、10の寺に奉納したという。天平宝字8年(764)から6年間でこれだけの大事業をやってのけたのだから、すごい。
●現在、この百万塔が伝存するのは、法隆寺のみであり、明治41年(1908)の調査の時には、43900基ほどあったと記録されているが、その後、流出もあり、現在は、かなり少なくなっているらしい。百万塔の材質は、小塔は檜で相輪は桂などが使用されている。古書店などに、たまに出るが、数百万から1千万の値が付いている。
●私は、昭和女子大学の出版文化史の講義の時、少し調べた事があるが、この小塔にも、印刷物の陀羅尼経にも非常な興味を覚えた。そんな時、NHKのラジオで富山県庄川町の伝統工芸士・小西久夫氏が、法隆寺の百万塔陀羅尼経の原寸複製を作製している事を知り、すぐ電話をして、教材に使用するという条件で特別に格安で分けて頂いた。そのお蔭で、学生には、複製品を直接回覧することができた。
■■ 木地師・吉三郎作製 百万塔陀羅尼経
■相輪 小西氏は、この相輪の作製は、深夜の静寂の中で行うと語っておられた。
■このように、相輪の下には、陀羅尼経が一巻ずつ入れられた。