平安文学と琴曲

■「和琴は、かの大臣の第一に秘し給ひける御琴なり。・・・琴は、兵部卿の宮ひき給ふ。この御琴は、宜陽殿の御物にて、代々に第一の名ありし御琴を、故院の末つ方、一品の宮の好み給ふことにて、賜り給へりけるを、この折の清らをつくし給はむとする為、大臣の申し賜り給へる御つたへつたへを思すに、いとあはれに、昔のことも恋しく思し出でらる。御子も、酔泣えとどめ給はず。御気色とり給ひて、琴は御前にゆづり聞えさせ給ふ。・・・」(『源氏物語』若菜上、池田亀鑑校注、日本古典全書)

●和琴(わごん)はやまと琴で6絃、琴(きん)は7絃で、古琴とも言い、中国から日本に伝来したのは、奈良時代だという。本日、私は、中国の奏者・余明氏の演奏する「琴」の数曲を聴くことが出来た。とても、繊細な音色の琴曲である。

●実は、上原作和氏から『平安文学と琴曲 余明 王昭君を奏でる』(2010年3月15日発行、科研補助金による研究成果の一部)のDVDを頂いた。『源氏物語』は学生時代から読んでいたが、専攻ではなかったので、一応読んだ、という程度に過ぎない。まして、和琴や古琴のことなど知らなかった。今回の、上原作和氏・正道寺康子氏の企画・編集、余明氏の演奏する琴曲を拝聴して、日本の琴とは全く異なる、繊細な曲の音色に驚いた。中国前漢の宮女・王昭君、数奇な生涯をたどった彼女の哀話を表現する楽器として、ふさわしいものであり、平安貴族の、繊細な生活の1コマが、目に浮かぶようである。

■『平安文学と琴曲 余明 王昭君を奏でる』


■琴を演奏する 余明氏