学問の伝統

東京学芸大学の「近世文学「叢」の会」から『叢 草双紙の翻刻と研究』第30号が刊行された。B5判・286ページの大冊である。黒石陽子氏の『新板 根元石橋山』はじめ、10作品と前号の補説が収録されている。各執筆者が、1年間研鑽を重ねてきた成果が、ずしりと重く手から脳に伝わってくる。思わず頭が下がる。

●私が、近世文学会で、この若緑色の表紙に出合ったのは、もう20年ももっと前の事だった。仮名草子が専攻の私には、後期の草双紙は縁が遠いとは思ったが、内容が実に着実ゆえ、購入した。果たせるかな、毎号毎号、学ぶ事が多かった。ああ、このようにするのか、これは仮名草子にも活用できる、と何度教えられたか分からない。

●それが、30号になる。1979年、小池正胤氏を中心にして創刊されたという。その成果は、2006年刊行の『草双紙事典』(東京堂出版発行)をはじめ、大きく実を結んでいる。今度の号の各編を拝読しても、磨き上げられた、という感慨を持つ。継続は学問にとって極めて重要な要素である。小池先生の学問的伝統は根を張った。そんな思いがする。

■本書の詳細目次→http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm

■■『叢 草双紙の翻刻と研究』第30号 表紙