仮名草子作品の版本の和紙

●増田勝彦先生の和紙についての論説を拝読して、私は、仮名草子の版本調査を始めた頃を思い出した。版本調査は、学生の3年・4年頃から開始した。調査方法も、先人の調査をお手本にした。しかし、誠に様々であった。私は独自の調査方法を作った。調査項目は、31項目、もちろん本文用紙の項目もある。麻紙、穀紙、斐紙(雁皮紙)、檀紙(陸奥紙)、等々、様々な和紙があったが、江戸時代の版本に使用される紙は、余り多くは無い。見本を持参して調査した。しかし、調査結果の発表の時には、この本文紙の項目を削除した。20年、30年という長期間にわたる調査もあって、この間に私の和紙の知識も充実し、変化がある。そんな理由からである。

●思い出せば、こんなことがあった。私は、法政であるが、法政の図書館は、社会科学は、充実していたが、文学、殊に、江戸の版本など、皆無に近かった。私は、大学2年3年のころから、早稲田大学の図書館に入り浸りして、お世話になった。貴重書室の中沢さんなとには、早稲田の学生のように御指導を賜った。

●ある時、貴重書室の、シバタさんに、こんな質問をされた。刷の先後は、どこで判断するの? 版面の状態、欠損とか摩滅とかで考えますが、最後は紙だと思います。私は、そんな、大それた事をお答えした。私は、同じような紙の場合、漉きの時の簾の糸の間隔も計っていた。そのデータが決め手になった事もある。そこでこんなお答えをしたのである。

●後年、長澤規矩也先生に御指導頂いた時、この点では、今、何方が詳しいのでしょう、と質問したところ、長澤先生は、早稲田の柴田君が一番詳しいでしょう、とのお答えだった。かつての出来事を内心で思い出し、冷や汗が出る思いだった。

●和紙の世界は、誠に魅力的である。私は、昭和女子大学の出版文化史の授業では、和紙の事を詳しく講義した。しかし、増田先生など、専門の方々は、繊維の科学的な分析で、データを出している。