谷川徹三先生の 「芸術学」

●『新潮45』2月号で、詩人・谷川俊太郎の生い立ちを読んで、大変面白かった。それで、法政大学の谷川徹三先生の、選択専門科目「芸術学」を思い出した。テキストは、ハーバート・リードの『芸術の意味 THE MEANING OF ART』、訳者は瀧口修造みすず書房の新書判だった。今、本は、すぐに探し出せないが、どこかにある。講義ノートは今も保存している。私は、大学へは雑記帳1冊のみ持参し、帰宅後に、科目別のノートに転記していた。だから、大学時代のノートを見て、今でも理解はできる。
●受講前の準備として、常識的な「芸術」「芸術学」等の概念や歴史は調査して出席していた。谷川先生は、喋り方も、姿勢も、着ている洋服も、気品のある先生だった。一度たりとも、冗談を言ったことも、姿勢・動作を崩したこともなかった。テキストの内容は、現在出ているものと同じである。
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目次
I
1 芸術の定義/2 美感/3 美の定義/4 芸術と美の区別/5 直観としての芸術/6 古典的な理想/7 画一的でない芸術/8 芸術と美学/9 形態と表現/10 黄金分割/11 幾何学的調和の限界/12 歪曲/13 パターン/14 個人的な要素/15 パターンの定義/16 形態の定義/17 絵をみるとき何が起るか/18 感情移入/19 感傷/20 形態の必要/21 内容/22 内容のない芸術・陶器/23 抽象芸術/24 ヒューマニスティックな芸術・肖像画/25 心理的な価値/26 芸術作品の諸要素/26a 線/26b 調子/26c 色彩/26d 形態/27 統一/28 構造上の素因  【以下略】
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●私は、一番前の席に座り、先生の一言一句も聞き逃すまいと、講義を受けた。先生は、一通り概説が終ると、テキストを逐条的に読み上げ、瀧口修造の訳文に対して、修正・批評・補足をしてくれた。もちろん原書を持参されていた。私は、テキストに通し番号を付けて、ノートをとった。
●私の、芸術についての基礎は、この講義だと言ってもいい。ハーバート・リードの『芸術の意味』は、素晴らしい内容であり、瀧口修造の訳は見事であり、谷川先生の講義は非常に魅力的だった。
●この科目の講義の中で、一度質問した事がある。それは、ヨーロッパ建築における、リアルアーチとポインテッドアーチの関係に関するものである。谷川先生は、それは、良い質問ですね、調べてみましょう、と答えられた。その後、回答はして下さらなかった。間もなく総長になられたので、大多忙の頃だったと思う。大学時代の楽しい思い出である。
■『芸術の意味』