詩誌 『黒豹』 NO 137

●千葉の館山で発行している詩誌『黒豹』NO 137 を頂いた。毎号18頁という薄っぺらな雑誌であるが、現在は同人8人の詩が掲載され、詩の世界を世間に問うている。内容は、ずしりと重い雑誌である。
●発行者・諌川正臣氏が師と仰ぐ尼崎安四の詩が毎号巻頭を飾る。戦中・戦後の、この詩人の生きざまを、諌川氏の編集後記で知ることが出来る。尼崎安四は、西部ニューギニヤで終戦を迎えた。帰国後、戦後の厳しい社会状況の中で、生きるための商売をする。うまくゆく時もあったが、商売仲間に大金を持ち逃げされ、マッチやタワシを売って、その日その日を凌ぐこともあった。しかし、詩人は詩を創り続けた。この号の巻頭の詩「微塵」も、そのような状況の中で詠じられた作品だという。

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微 塵              尼崎安四

月光がひとすぢさしこんでゐる
塵箱の中に捨てられてゐる砕けた皿
こなごなになり、いのちを失つたゆゑに
ふたたび戸外の闇に 捨てられたかけら

尖つた角をむきむきにむけて
白くひかり、凡ゆる暗い可能性をその周りにとり戻してゐる
声なく 言ばなく 表情のない はげしいもの
世の愛情を拒んでゐる いびつな破片

人のもつ凡ゆるイデーを砕き破つて
思ひもうけぬかけら自身のいのちをここにとり戻してゐる
あるところは眩しく月光にてりかがやき
あるところは涯しない闇にそのままつらなつてゐる

             26・6・16
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●「編集後記」は言う。「前記四篇は苦境の中で作られたものでありながら、読んで快く、美さえ感じる。そして何度も読みたくなり、読む度に新しい感興を覚える。」一篇の詩にかけた詩人の鋭い思念が迫ってくるように、私には思えた。
■『黒豹』 NO 137