天声人語 の 「昭和天皇実録」

●今日の 天声人語 は、「昭和天皇実録」の完成を採り上げている。ここで指摘されるように、第二次世界大戦の戦中戦後を、このような立場で体験された〔人〕は、昭和天皇以外にはおられない。
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昭和天皇実録」が完成 
昭和天皇と柔道の山下泰裕さんの会話である。「どう? 柔道は、ずいぶん骨が折れますか?」「はい、2年前に骨折いたしまして」。このやりとりに園遊会はどっとわいた。1989年1月8日の当欄が紹介したエピソードだ。

 前日の7日に昭和は終わった。亡き天皇の「無類のお人柄」をしのぶにはうってつけの光景だったろう。軍国主義日本から平和日本へ。統治権の総攬(そうらん)者にして現人神(あらひとがみ)から、国民統合の象徴へ。その生涯ほどの激変を生きた人物は古今にそう多くはいまい。

 1901年の誕生から亡くなるまでの足跡を記した「昭和天皇実録」が完成した。宮内庁による24年余の編集作業だった。元側近らからの聞き取り調査や日誌、公文書などの資料に基づく記録で、計61冊、約1万2千ページの大作だ。

 大正天皇実録の場合、完成から初めての公開まで60年以上もかかった。しかも、天皇が首相らから受けていた「内奏」の中身など、多くの箇所が黒塗りにされた。今回は9月中旬には公表され、黒塗りもないという。当然とはいえ、歓迎できる様変わりだ。

 これまで昭和天皇自身の『独白録』があり、時々の侍従長宮内庁長官らの日記、証言なども少なくない。今回の成果は歴史研究の進展にどんな寄与があるだろう。敗戦や憲法制定といった節目がどう描かれているか、興味深い。

 劇作家の寺山修司が書いている。一番面白い劇は何かときかれたら「歴史」と答える、と。昭和史というドラマをたどり直すいい機会である。


(2014年08月23日 朝刊)
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