定年退職

●今日の天声人語は、定年退職を取り上げている。
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新入社員も「大過なく」
 サラリーマン人生最後の日を迎え、主人公は自分の机をなでながら心の中でつぶやく。(大過なく、とにかく、大過なくであった……)。源氏鶏太が1962年に本紙に連載した『停年退職』の幕切れである。
 半世紀以上たったいまも、大過なく、は定年のあいさつの定番だろう。多少の失敗はあったろうし、嫌な思いもしただろう。長年の職場を去る寂しさや不安もあろう。ただ、そこにはともかくも勤め上げたという、ずしりと重い感慨がにじむ。 【以下省略】
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●私は、大学を卒業して、日本橋桃源社という、大衆小説専門の出版社の編集部にお世話になった。ここで、初めて、源氏鶏太の小説を読んだ。仕事として読んだのである。山手樹一郎の小説も読んだ。この種の大衆小説は、生まれて初めて読んだので、世の中には、このような小説もあるのだ、と再認識した。源氏鶏太山手樹一郎も実に上手かった。出版社にとっても編集部にとっても、このお二人は神様であった。純文学の世界で生きてきた私には、誠に新鮮な世界であった。
●源氏先生、山手先生の御自宅にも、原稿を頂きに、何回も何回も、お伺いした。しかし、先生に直接お会い出来るのは、本当にたまにであった。作家志望のお弟子さんにも、たくさんお会いした。実に楽しい毎日だった。
●大衆小説は、純文学に比較して、文学的価値は低いだろう。しかし、私は、これらの編集の仕事に、嬉々として取り組んだ。この小説には、一字たりとも誤植のないように、と真剣に校正をし、レイアウトに意欲を燃やして、見本を先生にお届けした。楽しい思い出である。
●私は、平成17年(2005)に昭和女子大学を定年退職した。源氏鶏太の小説『停年退職』の幕切れのような心境であった。今、その様子を記した拙文の校正中である。
山手樹一郎 『桃太郎侍