電子書籍時代の蔵書論

●今日の朝日新聞、文化欄では、電子書籍時代の蔵書に関して、愛書家8人のトークイベントを取り上げている。岡崎武志氏、荒俣宏氏、石田英敬氏、松原隆一郎氏などの蔵書論が紹介されている。
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 ■空間的な認識力
 西洋の本の歴史を振り返ると、現在の形に近い冊子状の写本「コデックス」が登場したのは古代ローマ時代。以後、それまで主流だった巻物に代わり広まっていった。東京大付属図書館副館長の石田英敬教授(メディア論)は「冊子の方が、人間に備わった空間を認識する能力を生かして、内容を記憶し理解しやすい強みがあった」と話す。
 冊子ならば、読んだ内容を「中ほどのページの右上」のように、空間的な情報と結びつけて記憶しやすい。巻物と違ってページ番号を振ることができ、目次、索引なども備えた形に進化していったという。
 一方、電子書籍は文字の大きさを変えると、ページ構成も変わる。どのくらい読み進んだか数字で表示される場合もあるが、体感的には把握できない。読みやすさに限って言えば、巻物の時代への逆戻りに近いというわけだ。
 ■数百年の保存性 
空間認識能力が生かせるのは、紙の本が集まった書棚でも同じ。「並んだ背表紙をながめていると、背表紙同士が結びついて、新しい発想が生まれることがある。目の前の空間にあるからこそ、刺激を受ける」。社会経済学者の松原隆一郎・東京大教授はそう話す。
 『書庫を建てる』(共著、新潮社)を先月、出版した。地下1階から地上2階まで吹き抜けで、円筒形の壁面が1万冊の本で埋め尽くされた書庫についてつづった。書棚の区画は興味のある分野ごとに細かく分かれている。360度を蔵書に囲まれた松原さんは「自分の頭の中がすっきりと整理される感覚。ものすごい快感だ」。
 荒俣さんの蔵書で一番古いのは、16世紀の博物学者ゲスナーの本。愛書家から愛書家へと数百年、保存状態は良好で今でも読めるという。「物としての本の保存性の高さは歴史が証明している。むしろ今の電子書籍は数百年後、規格変更などを乗り越えて読めるだろうか? 時の試練を受けるのはこれからだ」と話している。(上原佳久)
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●いずれの御意見も、参考になる。自分の蔵書の書棚もそうであるが、特に広範囲の分野の蔵書を収める図書館は、まさにそれは、触発の世界であり、空間である。私は、昭和女子大学に勤務していた頃、今日は、少し時間を楽しもう、そう思った時は、大学の図書館の書庫に入った。これと言った目的の本は無い。専攻以外の、近代文庫も実に楽しかった。このような装丁の本の中身は何だろう、こんな書名もあるのだ。文学でなく、歴史のコーナー、法律の分野、自然科学の書籍群、それらの本から触発されるモノは、実に大きい。このような効果は、電子書籍には望めないだろう。
松原隆一郎氏の書庫