画期的労作 永井一彰氏著 『板木は語る』

●永井一彰氏の『板木は語る』が発行された(2014年2月28日、笠間書院発行)。近世出版史における画期的労作である。朝から読み出して、止まらない。実に興味深い研究であり、著作である。私など、初めて接する事が多く、驚きの連続である。
●永井氏が、板木に興味を持ち出したのは、平成6年頃であったという。
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 板木を研究対象として意識し始めたのは、平成6・7年ごろに京都の大書堂に大量の浮世絵復刻版が出ているのを見て、図書館収蔵資料として500枚ほどを一括購入したのがきっかけであったと思う。同じ大書堂の倉庫で1100枚ほどの書籍の板木に遭遇したのは、平成9年後期に与えられた内地研修期間中のことであった。聞けば、近世期に山城屋佐兵衛と名乗って本屋を営んでいた藤井文政堂から戦後に流出したものとのこと。この板木は内典・外典に分けて、内典の約600枚は大谷大学に引き受けていただき、外典の約500枚を奈良大学で引き取ることとなった。その後、文政堂に500枚ほどの板木が残っていること、また京都の印章店に文政堂から流出した板木が200枚ほど保存されていることも判明し、併せて大学へ運び込んで調査を行った。これが、平成10年から13年にかけてのこと。15年には浄土真宗佛光寺派本山佛光寺からの依頼を受け、3000枚を超える収蔵板木の調査に入った。そして、16年4月に竹苞楼の板木約2500枚を奈良大学へ搬入して整理・調査を開始。17年6月には竹苞楼から奈良大学へそれらが全て譲渡されることになる。その後、19年には大阪の中尾松泉堂の倉庫に半世紀近く眠っていた高野版の板木約500枚を引き取り、23年には京都の美術出版社マリア書房が昭和38年に出した「文楽人形版画集」他の板木約600枚を購入。この間、「当麻曼荼羅」板木・「春日版」板木・「一茶等七評発句合ちらし」の板木なども折々に買い漁り、現在に至っている。最終的に奈良大学の収蔵に帰した板木は5000枚ほどに及ぶ。
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●これは、「あとがき」の1部である。永井氏が板木の研究を続けられ、その間に勤務先の奈良大学に所蔵されることになった板木は5000枚にもなるという。これは、驚きの数字である。恥ずかしいことであるが、私など、近世文学を研究し、近世出版に関しても、そこそこ興味をもってきていて、板木も5枚位は購入して、学生にも見せてきたが、これ程、大量の板木が伝存しているとは、夢にも思わなかった。さすがに、出版発祥の地・京都だと思う。
●平成15年(2003年)10月10日、共同通信京都支社の記者から電話が来た。京都で、仮名草子『因果物語』平仮名12行本の板木が全編揃いで発見された、コメントが欲しい、というもの。私は、驚いて、木版出版に使用するのは、多くは山桜の自然木で、何回か削って使って、後は焚き木にするので、板木の伝存は少ない。それなのに、作品全体の板木が発見されたのは、書誌学的にも大変意義のあるものです、と答えた。
●このような1件があってから、永井氏の御研究に関心を持つようになった。この度完成した御著書は600余頁の大著。大量に掲載された写真図版を参照しながら拝読すると、本当に多くの事を教えて頂ける。永井氏は大量の研究対象・板木を綿密に、克明に調査・考察された。これは、従来無かったことであり、近世出版史においても、書誌学的な研究においても画期的な業績である。永井氏の御研究に感謝し、その大成を心から祝福申し上げる。
▲本書の詳細 → http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm
■永井一彰氏著『板木は語る』