原 道生 氏の大著 『近松浄瑠璃の作劇法』 刊行

明治大学名誉教授、原道生氏の大著『近松浄瑠璃の作劇法』が刊行された(2013年11月30日、八木書店古書出版部発行、A5判、720頁、定価14000円+税)。

第一部 総論
第二部 時代物(中期)
第三部 時代物(後期)
第四部 世話物
第五部 余滴

●このような構成となっている。著者の近松門左衛門を中心とする浄瑠璃研究の集大成であり、昭和37年から平成23年にわたる50年間の研究の集大成である。本書収録の諸論に通底する問題意識について著者は次のように述べている。
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 ともあれ、そのように長い年月の聞、さまざまに異なる経緯を通して発表してきた諸論考から成る本書の場合、残念ながら、そこには、それらすべてを明確に統括しているテーマや問題意識が一貫して存在しているというわけではない。しかしながら、強いて、それらに共通する基盤とでもいうべきものを、挙げるとするならば、以下のような、私自身の芝居についての考え方が、各論考の前提になるものとして関与していたいうことはできるだろう。すなわち、それは、一般人に、人が芝居を見る場合、まずその時の舞台上には、どのような筋立ての展開を通して、どんな劇的状況が作り出されているかということに興味を惹かれ、さらにそうした架空の状況下において、どのような登場人物たちが、それに見合った行動をするかを目撃することにより、自分たちの平素の日常生活にあっては得難いような、新しい発見や感動を体験するということに喜びを見出すものであるという、すこぶる素朴な見解に他ならない。そして、そのような観客たちの期待に対し、ほとんど常に、高いレベルをもって応えることのできた近松という作者やその作品の特色を、生きた形において捉えることをしてみたいという強い願望が、あえていえば、本書に底流しているはずの、私の問題意識と呼べるものなのだった。
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●50年間の研究生活の初発から、確たる問題意識をもって取り組むということは、そうそう、誰でも実行し得るものではないだろう。しかし、一つ一つ作品を読み、味わい、また既に発表されている先学の諸論に接し、そこから、問題意識も生じ、自分の見解も述べたくなるし、他説に異を主張したくもなる。著者の大著の底にある問題意識こそ、文芸を研究する最も重要な視点だと、私は思う。既に雑誌などに発表された論文を、その時その時に拝読してきたが、本当に、多くの事をお教え頂いた。
●本書の構成を見ても解るが、近松の時代物に力点が置かれている。昭和37年というと、私が大学を卒業した年である。当時を振り返ると、近松と言えば世話物、世話物の論が多く、時代物の研究は立ち遅れていたように思う。これは、門外漢の感想ゆえ、誤っているかも知れない。『大職冠』の研究を核とする時代物の研究に、私は多くの事を学んだ。
●もう1つ、初出一覧が、「あとがきに代えて」となっていて、その論文に関して、その後の研究に関して詳しく説明されている。これは有り難い。
●原先生と、私が初めてお会いしたのは、東京大学国語国文学研究室所蔵の『可笑記』の写本を閲覧・調査させて頂いた時である。以後、本当に多くのお教えを賜った。本書の刊行を祝福申し上げ、改めて感謝申し上げる。

★本書の詳細 → http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm

■原道生著『近松浄瑠璃の作劇法』