長谷川 卓  最新作 『嶽神伝 無坂』

●長谷川卓の最新作『嶽神伝 無坂』上下2冊(2013年10月16日発行、講談社文庫、定価、上下、定価各610円+税)が刊行された。講談社文庫の書下ろし作品である。
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山の者たちの集団の中から、数年にひとり、時としてとてつもなく知力と技にたけた者が出ることがある。その心根はあくまでも清く、出会った者たちは皆、その心に打たれるという。山の者たちはそうした男を〈嶽神・がくじん〉と呼んでいる。
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●トビラには、〈嶽神・がくじん〉をこのように説明している。私も、長谷川卓の〈山の者〉を描いた一連の作品を読んでいるが、実に面白い。私は、この小説ではじめて、山の民を知った。その生き方、その神業、その掟、山の者には山の者の仁義がある。胸とどろかせて読んだ。そのシリーズの復活は嬉しい。
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 天文十年(一五四一)五月。
 甲斐守護職武田信虎は、北信濃を治める村上義清と諏訪を治める諏訪頼重とともに、小県の海野棟綱(真田家の祖である真田幸隆の父)を海野平に攻め、甲斐に凱旋帰国する。
 翌六月。戦勝に酔った信虎の心に油断があったのか、嫡子に裏切られるとは予想だにしていなかったのか――。
 駿河に娘婿の今川義元を訪ねた帰路、信虎は国境で甲斐への入国を拒絶され、駿河に追放される。
 時に信虎、四十八歳。父を追った嫡子・晴信(後の信玄)、二十一歳。
 この日を以て甲斐国主の座は、晴信の手に移る。
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●作品は、このような時代を背景にして展開される。私は、この長谷川卓の新作をこれから読む。実に楽しい。文芸評論家の細谷正充氏は、うおおおおおーと大声を上げて、〈嶽神〉の復活を喜んでいる。私も、同じ思いである。
■長谷川卓『嶽神伝 無坂』上

■『嶽神伝 無坂』下

■作品の舞台