文章千古事

ラフカディオ・ハーンは、東京帝国大学の英文科で『最高の芸術』について講義した。私は、大学の1年の英語のテキストで、これを習った。そうして、その内容に感激した。ハーンは、この講義を終えるに当たって、次のようなことを学生に述べている。
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大学を出ると、大部分の人が就職する。そうなると、職業のために時間を取られてしまう。すると、若い皆さんは、詩や小説や劇などに費やす時間は無いと思い込んでしまう。それは、大きな間違いである。諸君が、とても忙しくて、1日30分ないし20分、文学のために割く余裕が無いとは思われない。1日に、たった10分割いたとしても、年末には相当のものになる。
諸君は、毎日、作品の5行を書くわけにはゆかないだろうか。5行に365日を掛けると相当の量になるだろう。
諸君のうち、真に文学を愛する者は、この短い言葉を忘れずにがんばって欲しい。
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●ハーンはこんなことを述べている。そうして、私の記憶によれば、ハーンは、原稿を書いたら、まず、机の引き出しに入れておいて、数日後に読み直しなさい。それを繰り返して、最終原稿に仕上げなさい、そんなことも、述べていたと思う。創作原稿の推敲である。
●私は、原稿を書くようになってから、もちろん推敲はしてきたが、原稿を引き出しに入れておくことはしていない。極力、早く、投稿したり、単行本・雑誌などの活字化を計ってきた。従って、私には、原稿のストックは常に無い。何時、なんどき、死んでも、悔いは無いようにしてきた。『文学研究』『近世初期文芸』『芸文稿』などの雑誌に関与してきたのは、その計画の一環だった。

■文章千古事
杜甫は、大暦元年(766)「偶題」という五言古詩を書いている。

文章千古事 得失寸心知
(文学は永遠の価値ある仕事だ。文学の良し悪しは私の心がすべて知っている。)

●私は、この言葉を、東北大学の新田孝子先生から教えて頂いた。

■「文章千古事」 冨樫省艸 刻