短歌雑誌 『あかね』 9月号 通巻168号発行

●このところ、東京堂出版の『仮名草子集成』第50巻の校正に集中している。やはり、古典文学作品の校訂はシンドイ。殊に老人にはこたえる。この仕事は、駆け出しの頃からやってきたが、厳しくて溜め息の出るものではあるが、常に発見が伴うので、実に魅力的な作業でもある。横山重先生は、戦時中も、この仕事に没頭された。若い学徒が終戦になって帰ってきて、古典研究ができるように、という心掛けであった。頭の下がる人生である。
●横山先生は、島木赤彦に師事して短歌の道に打ち込んだ時代もあった。それで、頂くお手紙の中には、時々、短歌が挿入されていた。散文では伝わらない、先生のお心が、私にしみいった。
●「子規以来の写実の歌」を目指された、若宮貞次先生の創刊された短歌雑誌『あかね』9月号が発行され、本日、頂いた。若宮先生亡きあと、教えを継承された方々が編集発行をしておられる。巻頭には、若宮先生は、恩師・五味保義先生の歌を掲載しておられたが、新しい編集者は、この号から、若宮先生の歌を掲載した。

  高尾山             若宮貞次
 折々に来たり遊びしこの山に思ひ出づるは切れぎれにして  
                      昭和六十二年
 五味先生を中にし写真を撮りたりき薬王院のこの門の前
 心張りてこの部屋に原紙切りたりしかの夏安居の夜の思ひ出
 高杉の梢に動く朝霧を詠みましし歌今に忘れず
 わが一首よしと言はれし先生のみ声忘れず三十年過ぐ

●この度の、第29巻第5号、ざっと閲覧して、この雑誌に寄せる歌人の、力強い息吹を感じた。若宮先生追悼の歌も掲載されている。一読、私は涙がにじんだ。若宮先生は、よい門下生、よいうたびとに恵まれた。

■短歌雑誌『あかね』第29巻第5号

■故若宮貞次先生 お別れ会