『古典にみる日本人の生と死 いのちへの旅』

●原 道生氏・金山秋男氏・居駒永幸氏の共著、『古典にみる日本人の生と死 いのちへの旅』が刊行された(2013年5月15日、笠間書院発行、定価3800円+税)。明治大学人文科学研究所草書の1冊である。本書の執筆意図について、「はじめに」で、次の如く述べられている。
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「本書は、いのちへの遡行を通して、文化・型の発生のメカニズムを見極めようとする三人の学徒の熱意から生まれた共同研究の成果である。
 居駒永幸は、『万葉集』や記紀神話などの古代文学のみならず、沖縄の神歌などを研究する気鋭の学究の徒だが、本書では日本人独得の死生観や霊魂観がどのような儀礼を生み、かつ葬歌や挽歌を生んだかを洞察している。
 原道生は、近松門左衛門人形浄瑠璃を中心に据えた近世演劇研究の泰斗だが、本書ではいわゆる「身替り」劇に焦点を絞り、その類型の多様さやその発展過程を考察するとともに、他者の代りに死ぬということがどのような意味を持ち、逆説的な「生」の意味づけをなしえたかを考究している。
 金山秋男は、道元親鸞や一遍の研究から入り、次第に日本人の死生観や宇宙観を中心にした死生学を追求してきたが、本書では幾人かの宗教者、芸能者や文人の生死解説の諸相を見極めようとしている。」
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●日本の古典、古代文学・中世文学・近世文学・近代文学の研究成果として、本書は刊行された。人間にとって、生・いのちとは何か、そして、死とは何か、この大きく重大な命題に対して、日本の古典文学を素材に挑戦した成果である。とかく文学が軽視され、大学における「文学」が姿を変え、姿を消している現在の状況の中で、極めて重要な主題に挑戦した貴重な成果だと、私は思う。文学にとって、恋愛とは何か、人間的な生き方とは何か、「死」をどのように受け止めるべきか、これは、最も重要なテーマであり、時代を超えた作者たちによって取り上げられ、書かれてきた。
●まだ、部分的にしか拝読していないが、いずれも力作だと思う。文学研究もこのように、主題を設定して分析にかかるスタイルも時として有効だと考える。私は、かつて、谷川徹三先生の、文学を哲学的に分析する論文に接して、感動したことがある。
●久し振りに、重厚な内容の著作にめぐりあった。
★本書の詳細 → http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm
■『古典にみる日本人の生と死 いのちへの旅』