侍言葉

●『歴史REAL 大江戸侍入門』に「侍言葉」の項がある。「御座る」「貴殿 きでん」「御主 おぬし」「身共 みども」「拙者」などの言葉。これらの言葉の語源は、狂言謡曲で使われている言葉にたどりつくという。武士が狂言謡曲を好んでいたことと関係しているらしい。
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「江戸で生まれ育った武士とは、江戸城に住む将軍の直属家臣である旗本や御家人だ。いわゆる御直参である。旗本と御家人を合わせて三万人ほど。家族やその家臣を含めると、十万人ぐらい。江戸の武士人口は五十万人を超えており、残りの四十万人以上は地方の武士だったことになる。」
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●参勤交代の制度のもとで、江戸の武士の5分の4は地方出身の武士だったという。各地方には、それぞれの方言がある。その共通語として生まれたのが侍言葉だったという。なるほど、と思う。私は、仮名草子の研究をしていて、東北庄内出身の作者の作品を読んでいると、時として、東北の方言が混じってきて、微笑まれる。なるほど、そういうことか、とうなずける。
●話は変るが、今、ケータイ用語として、侍言葉が、静かなブームになっているらしい。人気のランクは次の通り。

1位  かたじけない   意味:ありがとう   
2位  面目ない   意味:恥ずかしい   
3位  しばし待たれよ 意味:少し待ってください
4位  〜でござる  意味:「ある」「いる」の尊敬語
5位  参上  意味:目上の人の所へ行くこと
6位  出陣!  意味:出陣!   
7位  けしからん  意味:ひどく腹を立てること
8位  よきにはからえ 意味:良きに計らえ、好きに任せる
9位  いとおかし  意味:とてもおもしろい
10位  お主   意味:あなた 

●これらを若い女性がメールで使っているのかと思うと、これも、また、微笑ましい。
●私は、武家言葉に関して、貴重な体験をしたことがある。もう30年も前のことであるが、徳川宗家の葬儀が上野寛永寺で執り行われたことがある。他界なされた、その方には、『井関隆子日記』を差し上げたことが御縁となって、親しく文通をさせて戴いていた。そんな訳で、私も寛永寺の告別式に参列した。300人以上の人々がおられた。
●私は、造形美術大の上木敏郎先生と共に並んでいたが、上木先生に急用が出て、参列の後半では間にあわない。そこで、特別に前の方に移動させて頂いた。つまり、徳川家の御親族に続く席に移動したのである。世が世であれば、大老・老中などの席順であろうか。甲斐のヤマザル如きの立つ位置ではない。それだけでも、恐縮してお焼香の順番を待っていた。
●やがて、緋の衣の高僧たちの読経が終わり、親族の方々から、焼香が始まった。ここで、私は、江戸時代へタイムスリップしてしまった。そこで交わされていた、〔ことば〕は、明らかに、私達の日常で使う言葉ではなく、江戸時代から武家、将軍家で使用されてきたものだったからである。「兄さん」などとは言わない。『井関隆子日記』を研究していたお蔭で、このような貴重な体験も出来た。
■『歴史REAL 大江戸侍入門』「侍言葉」の項