『叢 草双紙の翻刻と研究』 第34号 発行

東京学芸大学近世文学研究「叢」の会から、『叢 草双紙の翻刻と研究』第34号が発行された(B5判,162頁)。平成24年度科学研究費補助金に基づく研究成果である。この研究は、1979年4月、小池正胤氏を中心にして始められた草双紙研究の継続である。年1冊刊行して、34年目になる。34年前の昭和54年というと、草双紙の研究も、その実体さえも詳細は明白でない研究過程だったと推測する。その状態で、このジャンルに鍬を入れ、開拓してこられた。まさに、継続の成果であろう。
●叢の会編の『草双紙事典』(2006年8月10日、東京堂出版発行)によれば、この事典に収録した作品は240種で、全体の20%だという。このジャンルが膨大な作品の山であることが推測される。私は、近世初期の仮名草子を研究してきたが、卒論を書いた頃は、作品数175点であった。現在は、約300点が仮名草子作品と見られるようになった。研究とは、そのようなものであろう。
●この度の、第34号には、次の6論考が収録されている。
○黒本・青本義経一代記』に見る初期草双紙の表現方法の特色(黒石陽子)
○黒本・青本『〔猿廻春花壻〕』について(瀬川結美)    
青本『鬼鹿毛の駒』の絵について―浄瑠璃絵尽『小栗判官車街道』との比較―(ジョナサン・ミルズ Jonathan MILLS)
黄表紙『雷之臍喰金』について(杉本紀子)    
○合巻『風俗女西遊記』について 其の二(檜山裕子)   
○頼光一代記物の絵における江戸と上方の違い その一 ―北尾政美の『〔頼光〕』『絵本英雄鑑』『絵本大江山』を中心にして―(加藤康子) 
●各論考を拝読すると、この34年間の研鑽の結果の深まりを痛感する。作品を定着し、その文学史上の意義に論点が深化していることを思わせる。

■『叢 草双紙の翻刻と研究』第34号