前田金五郎先生の思い出

●前田金五郎先生の思い出は、たくさんある。忘れられないこと、1、2を記したい。
●私は、昭和44年(1969)に島本昌一氏と『近世初期文芸』という学術雑誌を創刊した。第2号を出した時、おそるおそる、前田先生に、私達の無名の雑誌に御執筆頂けないでしょうか、原稿料は差し上げられませんが、雑誌は何部でも差し上げます、とお願い申し上げた。先生は、快くお引き受け下さり、しかも、雑誌が出来たとき、これは、雑誌の郵送費の足しにしなさい、とお金を下されたのである。それが、第3号(1973年発行)に掲載された「俳諧用語散考」12頁である。
●平成22年(2010)7月、前田先生から、お電話があり、150枚ほどの御原稿を『近世初期文芸』に下さると申された。それが、第27号の「潁原退蔵著・尾形仂編『江戸時代語辞典』読後感・寸評」19頁である。私達の雑誌は37年経って、先生に認めて頂いたのである。
●こんなこともあった。ある学会の懇親会での席上、ある方が、前田先生の御研究に関して言及された。酒席の上での事ではあるが、心から前田先生を尊敬している私としては、看過はできなかった。「前田先生の御研究は、50年も、100年も、後々まで残るものですッ!!」と、切り替えした。座は、白けたが、それは仕方の無いことである。今、見渡すと、その発言の御仁も、とうに定年になったけれど、目ぼしい著作は、トント聞かない。学問の尊さが解せない人には、そんな風にしか映らないのだろう。謝々。
■『近世初期文芸』第3号 の御論文

■『近世初期文芸』第27号 の御論文