卒論

●この数日来、ある叢書の解題原稿を読んでいる。若い研究者の執筆したものである。1点1点拝読するたびに感激し、感動している。それらの原稿は、老化した私の心を揺さぶる。この年になって、新たに教えられることも少なくない。学問て、いいな、そう思う。道を拓くことの魅力がここにある。

●私は、大学4年の6月、卒業論文の指導を受けた。個別指導の前に、全般的な諸注意が行われた。その時、ある先生が、「卒業論文とは、全心身を傾注して取り組む、無償の行為である。」と申された。私はこの言葉に、大変感激した。確かに、学生は学ぶ身分であるから、報酬を求めてはならない。しかし、よくよく考えてみると、労働して、それに対する報酬の無いことなど、この世の中には少ない。

●この度の、若い研究者の労作を拝読していて、「卒論」を思い出した。報酬の印税など、度外視して取り組む執筆姿勢に感激したのである。ボランティアではない。真理探究の姿が、そうさせるのであろうか。快い疲労感を覚えた。