小川菊松 と 『海のロマンス』

●今日は、1日、物置の雑誌等の整理をした。私は、これまで、日本文学研究会の『文学研究』、近世初期文芸研究会の『近世初期文芸』、芸文稿の会の『芸文稿』を編集担当してきたので、これらの雑誌のバックナンバーが大量にたまっている。物置3つに満杯状態である。かなり前に、4500冊を処分したが、またたまってしまった。もう、年も年だし、長くもないので、これらの雑誌を資源ゴミに出す準備をした。

●そんな中から、大正3年2月10日、誠文堂書店・中興館書店発行の、米窪太刀雄著『海のロマンス』が出てきた。A5判、574頁、定価2円である。

●著者の米窪太刀雄は、明治14年生まれ、長野出身、商船学校(東京高等商船学校、旧東京商船大学ー現在の東京海洋大学)に入学。明治45年〜大正2年、練習船大成丸に乗船し1年3ヶ月に及ぶ訓練航海で世界一周する。この訓練航海で毎日航海日誌を綴っていた。これを「大成丸世界周遊記」として朝日新聞に連載。これが夏目漱石の激賞を受け、『海のロマンス』と改題されて単行本として、誠文堂書店・中興館書店から発行された。

小川菊松は、明治45年6月1日、誠文堂創業、翌大正2年、渋川玄耳の『わがまま』を出版して出版界に参入。次の年に『海のロマンス』を出している。この本に、夏目漱石が序文を寄せている。
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・・・あなたの文章は才筆です。少しもの淀みもなく、それからそれと縦横にペンを駆使して行く御手際は殆ど素人らしくありません。・・・然しそこにあなたの弱点の潜んでゐる事を忘れてはなりません。あなたの筆は達者過ぎます。あなたは才に任せて書き過ぎました。素人らしくないと同時に少し黒人臭くなりました。私はあなたの文を読んで何故延ばす一方にのみ走らないで、縮める工夫に少し頭を使はなかつたかを遺憾に思ふのです。・・・私は「猫」を書いて何遍か後悔しました。さうして其後悔の過半は「猫」らしい文を読んだ時に起つたのです。あなたが私の文章を真似たと云つては失礼です。然し私の文章の悪い所があなたの文章にもあると云ふ事は疑もない事実です。私は其後自分の非を改めた積りです。あなたも今度第二の『海のロマンス』を書く時には何うぞ私の忠告を利用して、素人離れのした、しかも黒人染みない管筆で純粋なものを書いて下さい。
    大正二年十二月二十日  夏目漱石
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●今日は、雑誌の整理でクタクタになったが、漱石ののこの一文に出会えてよかった。

■『海のロマンス』 のケース

■『海のロマンス』 の奥付

夏目漱石の序