印税

●原稿料について記したので、ついでに印税についての思い出も書き込みたい。印税とは、一般的に、著者などが著作物を出版する時、その著作物の使用料として、出版社が著者に支払う料金のことである。大体、定価の10%が通例であるが、出版条件で、それより高いもものもあるが、読者対象が少ない場合は、5%とか低い場合もある。発行印税と売上印税があり、前者は発行すれば、その部数の印税を著者に支払う。売れ行きの見込みが立たない本などは、売上印税のケースが多い。私の出した『井関隆子日記』は売れ高払いであったが、たくさん在庫が残ってしまって、安い値段で分けてもらって、昭和女子大の講読のテキストに使わせてもらった。

●私は、これまで、65冊位の本を出版してもらったが、その印税をお金で貰ったことは殆ど無い。10%の印税分は全て本で頂いた。頂いた本を研究者の大先輩や、仲間に献呈した。そうすると、その方々が本を出した時、寄贈して下さることが多い。これで、バランスが取れた。印税が余分の場合は、その出版社にストックしておいて貰って、そこから出た高額の本の購入に充てた。とにかく、自分の書いた原稿でお金をもらうのは、イヤだった。それは、重友先生や、横山先生の生き方から学んだ事でもある。お金になる本の原稿を依頼された事もあったが、気が進まず、のらりくらりしていたら、K社もT社も立腹して断ってきた。

●大学定年後に引き受けた、文春新書は、私には珍しく、印税目当ての本であった。定年後だし、一生に一冊くらい良かろう、ということである。これは、売れるように、売れるようにと、知恵を振り絞って不特定多数の読者を想定して書いた。何度も何度も書き直した。お蔭さまで、6刷まで増刷された。印税も発行印税で10%頂いた。ただ、こういう本は、何度も書くべきではないと、以後、依頼されたけれど、断った。

■『旗本夫人が見た江戸のたそがれ』文春新書 第6刷 奥付