原稿料

●菊池先生のエッセイに「原稿料」を取り上げている。
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三十数年前、学生時代に古典現代語訳の仕事をしたことがある。どういうツテか覚えていない。出版社もシリーズ名も作品名も記憶にない。担当は江戸時代後期の合巻か何かの長編物語だった。わからない所は適当にごまかした、いいかげんな訳だった。当時は原稿用紙に万年筆で書いた。原稿を渡してから半年以上後、数回の分割払いで原稿料が振り込まれた。7万円を何回かだったと思う。5回だとすると35万円。それ以降、これ以上の原稿料を稼いだことはない。
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●大学院だろうと思うけれど、学生時代に、35万円の原稿料をもらうとは、効率のよい仕事である。いわゆる学習参考書は、出版社も研究書は売れなくて利益が上がらないが、この種の学参モノは、一定の売上げがあるので、原稿料も支払える。この場合、印税ではなく原稿料であるから、支払は1回のみ、後は、何回増刷しても著者への支払はない。
●私は、高校生の頃は、よく新聞やラジオに投稿して、かなりの記念品を貰った。大学生の頃は、売文の原稿は一切書かなかった。初めての原稿料は、昭和39年4月26日、サンケイ新聞の「私のすすめる本」に投稿して、確か1000円貰ったのだと思う。
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津田左右吉著 『文学に現はれたる国民思想の研究』
 私はかつて本書のように生き生きと、その時代を訴えかける書物に出会ったことがない。古代貴族社会、仏教的中世、戦乱の後に来る徳川時代、それらが著者の該博な知識に裏打ちされて展開され、その多面的かつ相対的な資料の取り扱いは、私たちに安心感をあたえるにじゅうぶんである。そして流れるように運ばれる筆の先に、時として光る創見のことばは、研究者に多くの示唆を与えてきたと思われる。
 私はこの古典的な名著を、日本の歴史、文学、思想を学ぶ学生にすすめたい。そこにはきっと学ぶものをして触発せしめるような諸見解が限りなく包蔵されていることであろう。堅苦しさを感じさせない文章は、一般人にも、私たちの先祖のあゆんで来た姿を、そして明日への方向を示してくれると思う。私はこの名著の読者がほとんど研究者に限られていることを誠に残念に思う。(岩波書店津田左右吉全全集四巻―八巻、各一二〇〇円)東京都墨田区 海老原春夫 会社員 30歳
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●この海老原春夫とは、私である。私は、この年の5月に、最初の論文「『可笑記』と儒教思想」を学術雑誌『文学研究』第19号に発表している。これは、掲載させて頂くだけで名誉であり、原稿料などもってのほかの原稿である。
■「サンケイ新聞」昭和39年4月26日

■学術雑誌『文学研究』第19号