良い本 と 売れる本

岩田書院の社長さんの過剰在庫のつぶやきを読んで、良い本が必ずしも売れない事を改めて痛感した。私は、研究者としてスタートした時から、自分の研究した事を広く伝えるのは研究者の義務だと心得た。研究した原稿は一切机の中に貯めないことにした。とにかく雑誌で活字にしたり、本にして、世間に出すように心掛けた。大学で卒論は「自分の全心身を傾注して取り組む無償の行為」であると教えられた。私は研究者としてのこれ迄を振り返ると、ずーっと卒論を書いてきたように思う。

●これまでに、論文とは別に、43点、65冊の本を出版して頂いた。研究していて本を出したくなると、出版社にお願いしたが、この本は良い本です、出版する意義があります、とは言ったが、この本は売れる内容の本です、とは一度も申し上げてお願いしたことはない。難解で意義のある本は、多くの読者には恵まれないものである。売れるか、売れないかは、出版社が判断することで、そこに出版人の意義もある。

●しかし、結果的には、私の書いた本は大部分が売れない本だった。この点では、出版社に対しては申訳ないと思っている。でも、私の本を出した出版社は、恥ずかしい思いはされていないのではないかと、密かに推測している。恥ずかしい本をいっぱい出して、儲けている大出版社よりも、出版文化史の上では意義のある活動だと思う。

●このような研究生活が出来たのは、理解のある出版社の方々の御配慮の御蔭である。いくら感謝しても、感謝し足りない。

■『井関隆子日記』全3冊 特別装丁本 パッセカルトン
 栃折工房修了、安井康子氏製本

■『井関隆子日記』上巻 昭和53年 勉誠社発行
 巻頭に 安政6年、分間江戸大絵図 を付す


■『井関隆子日記』中巻 昭和55年 勉誠社発行
 巻頭に 天保12年袖玉武鑑 を付す


■『井関隆子日記』下巻 昭和56年 勉誠社発行
 巻頭に 天保14年江戸暦 を付す


■『桜山本 春雨物語』昭和61年 勉誠社発行
 特別装丁本 安井康子氏製本
 左の写真は 鹿島則文

■『井関隆子の研究』平成16年 和泉書院発行
 特別装丁本 安井康子氏製本


■『旗本夫人が見た江戸のたそがれ』 平成19年 文春新書
 平成19年11月 1刷  平成20年4月 6刷