短歌雑誌 『あかね』 第29巻 第1号
●平成25年1月1日、お年玉のように、若宮貞次先生が編集兼発行する『あかね』第29巻第1号が、新聞とともに、ポストの中にあった。いそいそと開封する。
●表紙の絵が変わった。中村研一画伯の作品という。同人の〔うたびとたち〕の世界に読者を誘ってくれるようである。
●巻頭の、五味保義の三首。
たかくつむ石炭のわきの日でり道ほてりを顔に感じて通る
昭和四年
雨戸あけず幾日にならむ勤より疲れかへりて服ぬぐ寒さ
海に向く窓より海はみえなくに甍の上にひくき岬山
歌集『清峡』(冒頭歌より)
●作品集(その1)の若宮先生の歌。
両手あげ深呼吸をす老の身の今いささかの痛みのあらず
滞りなく書きをはる原稿を前にして吾が空腹おぼゆ
ポストより歌稿の束をとり出だす老のこころにいきほひの出づ
両の手のレジ袋振りふりあゆむ老の足腰軽しよろけず
かかとより踏みしめ歩む一歩一歩老の歩みをおろそかにせず
●病院へ行き、長い診察も受け、MRIの検査もし、鉄分補給剤ももらい、健康に留意して、歌を創り、雑誌を編集発行しておられる。頭の下がる歌人の生き方である。しかし、これ迄、長年に亘って継続してきた恒例行事、甲府で行われていた新年歌会は、この度は「紙上新年歌会」に変更された。高齢化の時代、社会の変動、自然現象のきびしさに配慮されたという。
●この号には、私の郷里身延の同人の歌も掲載されている。
望月八重子
我が住めるこの山里の月見草富士川の土手に咲きしなつかし
隣家の空き家となりて幾年ぞ庭草取るは私の仕事
佐野正枝
刈草にほひを運ぶ夕風に今日の一日の無事に終えたり
庭先にホトトギス咲き小菊咲く心静かにひととき憩う
●若宮先生の『あかね』は、29年目に入った。多くの同人の、一人一人の人生を、歌の世界に定着して、それを後世へ伝えていくのであろう。すがすがしさと敬虔な思いで今年の元旦はスタートした。