近代短歌の伝統 『あかね』第28巻 第6号
●若宮貞次先生、編集兼発行の短歌雑誌『あかね』第28巻第6号が発行された。28年間、各6冊発行であるから、通巻168号という事になる。大した創作活動の歩みである。歌の世界に身を捧げた先生に畏敬の思いを覚える。
●この号も、巻頭に、五味保義先生の歌 三首を掲げる。
遺歌集より
五 味 保 義
左手に力入らず左足に力入らずわれこのままか
わが足はつひに立たざれ自分ながらわれ自らの足の動かず
かくの如く足は立たざれ足立たぬ足守りてこの後いく年すぎむ
(昭和四十六年)
●五味保義は、島木赤彦と同郷・長野の歌人で万葉学の研究者である。京都帝国大学で国文学を学び、生涯を万葉研究に捧げたが、歌人としても、島木赤彦の影響を受け、齋藤茂吉、土屋文明の指導の下で創作活動を続けた。短歌雑誌『アララギ』の編集兼発行人を長年続けた。昭和57年に81歳で他界されたが、この歌は70歳の作ということになる。
●若宮先生は、若くして「アララギ」に入会、五味保義先生の指導を受けられた。今度の『あかね』第28巻第6号には、次の歌を掲載している。
門出でて歩める今朝はいつになく足腰軽ししかしよたよた
時かけてサンドイッチを食ひをはるいく月ぶりに食欲の出づ
よろけつつ巷を歩むかくまでもやせたりし身をいかになすべき
行くべきか欠席すべきか迷ひ迷ひ発送事務を少し進めつ
またしてもミスプリントの知らせあり手抜きをしたる罰とし言はむ
娘らのこゑにしたがひ朝より編集事務の机に寄らず
先延ばししてゐし昼の飯食はむ食はねば編集事務が進まず
月にむき木刀を振るささやかな冊子づくりのすすみし夕べ
●五味先生といい、若宮先生といい、作歌に生きる人生の崇高さを思わずにいられない。若宮先生の御健康を切に念じ申し上げる。
■『あかね』第28巻第6号 平成24年11月1日発行
■巻頭の五味保義先生の歌