『米欧回覧実記』挿絵の銅版

●今度刊行された、長澤孝三氏の『幕府のふみくら 内閣文庫のはなし』は、どの項目も参考になる事が多い。私としては、井関隆子が、第11代将軍徳川家斉正室、広大院に、『浜松中納言物語』や『万葉集略解』を献上しているので、あるいは、徳川将軍家の蔵書の中に伝存してはいないかと、内閣文庫に注目したが、これは、江戸城大奥大火で焼失したものと思われ、現存していないようである。誠に残念である。

●久米邦武の『(特命全権大使)米欧回覧実記』の挿絵用銅版に関する項は圧巻であった。こういうことなのか、そうであったのか、と感激することばかりである。久米邦武の『米欧回覧実記』の挿絵の版権は、内閣文庫の前身、太政官文庫が所有していたという。従って、図版の原版143枚が、内閣文庫に現存するという。

●昭和60年(1985)、東京・目黒駅前に久米美術館が開館した。その開館記念の展示に、『米欧回覧実記』の挿絵の銅版も展示したいと、借り出の申請が出された。しかし、3000回以上印刷され、100年以上保存してきたため、保存状態は思わしくない。協議の末、専門家の菅野陽氏に修復を依頼し、修復費は久米美術館で負担することになったという。この、修復作業を実際に進めたのが責任者の長澤氏だった。文化財の扱いに関する、一つ一つの配慮がなされて修復は完了した。その銅版で試し刷を各2部印刷して、内閣文庫と久米美術館で1部ずつ保管したという。平成19年発行の、高田誠二氏『久米邦武』には、久米美術館蔵の銅版画試刷1枚が掲載されている。

●私は、大学2年の時、目黒の久米邸にあった、久米邦武の書庫に入れて頂いて、蔵書を全般的に、見せて頂いている。邦武のお孫さんの久米晴子氏の御厚意によるものである。長澤氏の御著書を拝読して、様々なことを思い出した。

■『米欧回覧実記』挿絵用銅版 内閣文庫蔵
 長澤氏『幕府のふみくら 内閣文庫のはなし』 より

■『米欧回覧実記』銅版画試し刷 久米美術館蔵
 高田氏『久米邦武』 より