「主君らは糞のごとし」と言ひ切りし人・・・

●昨日、短歌雑誌『あかね』2012年5号を拝受した。編集兼発行人・若宮貞次先生の歌が巻頭に載っている。

○ふるさとの二十枚のわが放棄畑起こすか貸すか調査書来たる
○かへりみずありしふるさとの山畑を売る気のあらず貸す気のあらず
○若ければあるいは行きて耕さむ放置しをりし甲斐のわが畑
○人らより山猿多き集落となりし甲斐のわが上伊沼
○「主君らは糞のごとし」と言ひ切りし人のありたり『可笑記』を閉づ

●若宮先生が、人より山猿の方が多いと詠じた故郷・甲斐の上伊沼。私は、その下伊沼の富士川の川べりで育った。その故郷は、今、過疎化して、さびれている。先生の歌から、その真情がひしひしと伝わってくる。その先生が、私の校訂した『仮名草子集成』第14巻を読んで下さった。そして、近世初期に、主君を糞のようだと言い切った人がいたんだ、と詠じて下さった。

●「主君らは糞のごとし」と言ひ切りし人、それは、如儡子・斎藤親盛、『可笑記』の作者。私は、大学2年の時、この作品を読んで、歯に衣着せぬ文章と、痛烈な批判性に魅力を感じて、卒論に選んだ。作者の批判は、悪徳藩主や時には徳川将軍にまで、その矛先が向けられていた。

●若宮先生は、少年の頃から島木赤彦の歌を尊び、五味保義先生に師事されて歌の道に精進してこられた。保義先生は、あの五味智英先生のお兄さんだという。私は、島木赤彦を師と仰ぐ、横山重先生に大変な御指導を賜った。歌人から身をひき、古典研究者に転じてからの横山先生ではあったが・・・。奇遇、奇遇、この人生に感謝。

■短歌雑誌『あかね』第28巻・第3号。2012年5月

■『可笑記寛永19年版11行本
 鹿島則幸先生旧蔵本

■『可笑記』無刊記本
 長澤規矩也先生旧蔵本

■『可笑記』万治2年絵入本
 横山重先生旧蔵本

■『仮名草子集成』第14巻〜第16巻