124/30、 124/69。

大江健三郎朝日新聞の「定義集」は、毎回、読むのを楽しみにしていた。本日、3月21日で終りだという。124/30、124/69、はこの欄の大江の引用の行数だという。大江は、名文や感動した文章に出合うと、メモ用紙にでもすぐ写したという。それで、この「定義集」でも引用が、時々多くなり、読者から引用の行数を指摘されていたということらしい。

●引用するには、書き写す必要がある。書き写せば、脳裏に焼き付けられる。今、流行りのコピペとは、質が違う。私は、ゼロックス日本橋に初めて登場した時、小躍りして喜んだ。版本や写本の写しは大変だった。それが、ほぼ原寸で写せる。これは魅力だった。それから、リコーやキャノンや複写機が開発され、非常に便利になった。これは、朗報。しかし、私は、便利な複写機を使いながら、不安に襲われた。ただ、コピーして安心してはいないか、脳裏に焼き付けるのを忘れてはいないか、という不安である。

●私は、卒論の仮名草子作品のテキストを入手するのに、翻刻された古本を8000円で購入するよりも、大学ノート8冊に書き写す方法を選んだ。これは、正解だった、と今、思う。今はやりのコピペも結構であるが、コピーする内容を理解し、消化する努力が必要になる。

朝日新聞 3月21日