岡本隆雄氏の快著 『「一分」をつらぬいた侍たち』

●岡本隆雄氏の近著『「一分」をつらぬいた侍たち』――『武道伝来記』のキャラクター』が発行された(2012年1月30日、新典社発行、定価1500円+税)。B6判の新典社選書で206頁、大著とは言えないかも知れないが、快著であり、労著である。

●私は、まず、本書の目次に目を瞠った。このように、内容を具体的に詳細に伝える目次の著書は、余り見かけない。論文のタイトルも最近は、かなり具体的になってきた。私が研究論文を発表し始めた頃、長期に亙って、アメリカ・イギリスに研修に行っておられた、島本先生が帰国され、これからの論文のタイトルは、内容が分かるような具体的なものがよい、と教えて下さった。以来「○○○○論」とか「○○○○の考察」とかのタイトルは避けて、具体的に内容を伝えるようなタイトルにしてきた。

■本書の目次の1例を示すと、
6節 『中将ひめ』の“見せ場” ――荒木与次兵衛の“忠臣の「手負い事」”
百二十日間のロングランとなった『中将姫三番続』/古浄瑠璃『中将姫之御本地』―久米の八郎の登場/「せまじき物はみやつかひ」のセリフ/『当麻中将姫まんだらの由来』―「手負い」の久米の八郎を演じた荒木与次兵衛/中将姫・少将を亡き者にしようとする二人の継母―右大臣とよ成家と三条家の騒動/生首を持参してとよ成館に乗り込む久米の八郎―二人の忠臣の対決/「身代わり」の秘密を明かす「手負い」の久米の八郎―大詰め“ひばり山の場”/「お身替りにたてたか。でかした/\」というセリフ/もう一つの人気狂言―「悪人方」大山儀右衛門が主役を勤めた『大友のまとり』

●このような具合である。読者は、目次を読んで、本文の内容が予想できるし、読みたくなる。著者の知恵か、編集者のアドバイスか。いずれにしても見事な出来栄えである。

●本書はサブタイトルでわかるように、井原西鶴武家物の『武道伝来記』論である。まだ、一部分しか読んでいないが、歌舞伎的手法を通して分析された、作品への切り込みは、実に新鮮で、私など、ウスウス感じていた事を、明解に解析して教えてもらった、という思いが強い。有難い西鶴論に出会えた。

●実は、岡本先生とは、仮名草子研究会で初めてお会いした。野田寿雄先生が北大を定年になられ、青山学院に移られて、第1次・仮名草子研究会を創設された。私は、その準備会から参加させて頂いて、その時に岡本先生にお会いし、以後、今日まで、様々な御指導を賜ってきた。本書の「あとがき」によれば、その先生が、大学を定年退職された後、この御著書を書き下ろされたという。この快著の御出版を、心からお祝い申し上げる。

★本書の詳細 → http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm
■ 『「一分」をつらぬいた侍たち――『武道伝来記』のキャラクター』