藤岡忠美先生の『王朝文学の基層』

●藤岡忠美先生の『王朝文学の基層―かな書き土器の読解から随想ノートまで―』(2011年12月20日、和泉書院発行、定価2500円+税)が発行された。本書は、サブタイトルにあるように、伊勢の斎宮跡から出土した土器に書かれた和歌などの解読に取り組まれた藤岡先生の研究の御論文と、書評や研究の思い出などの随想が収録されている。

●私は、昭和女子大学の研究会で、藤岡先生の御講演を拝聴したことがある。平安朝の作者の伝記資料は極めて乏しい。先生は、作品それ自体の中から、作者の伝記資料を摘出されるプロセスを教えて下さった。厳密な資料批判を加えて利用する、その手順を学んだ。近世初期の仮名草子作者、如儡子の伝記など、恵まれている。私は、大きな感動をもって、先生のお話を伺ったことを、今も忘れられない。

●本書の回想によると、藤岡先生は、戦後の東大で、池田亀鑑先生の御指導を受け、『和泉式部集』の本文批評を卒論にされたという。私は、仮名草子可笑記』の本文批評を行ったが、池田亀鑑先生の『源氏物語』の御研究をお手本にした。また、藤岡先生は、「日記のフィクション」の項で、いわゆる日記文学の「自照性」に関して、疑問を持たれたという。日記文学には、「虚構とかフィクション」が不可欠な要素だとお考えになられたという。このことにも、私は同感できる。

●先生が土器に書かれた和歌などの研究をされる契機になったのは、奥様からの1本の電話であったという。奥様は、膠原病で長い間、闘病生活を送っておられたという。不自由な体で、いつも助けられている、少しでも先生のお役に立ちたい、そういう思いの電話だった。私は、昭和女子大で藤岡先生にお教え頂く事が多かったが、この奥様との生活の中での研究成果であったとは、今、初めて知って、大きな感動を覚える。果たして、私に、そのような真似が出来るだろうか。

★本書の詳細 → http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm

■『王朝文学の基層―かな書き土器の読解から随想ノートまで―』