『大輪靖宏句集』刊行

●大輪靖宏先生の、第3句集が刊行された(平成23年12月1日、俳句ネット発行。定価2500円、税込み)。第1句集『書斎の四次元ポケット』が出版された時、私は、大変驚いた。大輪先生と言えば、上田秋成の研究者であり、名著『上田秋成文学の研究』の著者であったからである。大輪先生の御研究は、大変理知的な手法で、秋成文学に鋭く、深く切り込んでゆかれた。私は、学生指導の時に、大輪先生の御研究を参照させて頂いた事が少なくない。秋成文学は、大輪先生のような、理知と、みずみずしい感性が備わっていて、初めて作者の意図するところに到達できるものと思う。

●大輪先生は、秋成から芭蕉へと研究を進められ、やがて俳句の作者へと進まれた。先生は上智大学で句会を主宰され、日本伝統俳句協会国際俳句交流協会、慶大俳句丘の会、等で要職を務めておられる。今や、現代俳句の俳人として、また指導者として活躍されている。

○生きるとは朧の中を歩むこと
○引越してまづ花種を蒔きにけり
○渓からの朝霧に濡れ山桜
○老尼僧気怠く見やる花の雨
○若き尼裾からげ行く花の雨
○牡丹は生きるに飽きて重く咲く
○緋牡丹は悪女めきたる笑みを持つ
○子ら呼び合ひ四月始まる気配あり
○しばし世を捨てし気持に山女釣る
○老医師は本日休診岩魚釣り
江ノ電が曲がれば白帆夏の海
○いま一度故郷の川で泳ぎたし
○故郷の泳ぎ覚えし川小さし

●大輪先生の日常の様子や、豊かでみずみずしい感性が伝わってくる。私は、若い頃、日本文学研究会で、先生の研究発表を拝聴したことがある。まさに、人生とは、先々のことは予測できない。研究と創作の上に、大きく花ひらいた人生を思う。

★本書の詳細 → http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm
■『大輪靖宏句集』