『源氏物語』 というテキストの伝来

上原作和氏の労作『光源氏物語傳來史』(2011年11月19日、武蔵野書院発行)が刊行された。私は平安朝文学は専攻外の分野でもあり、そんなによく解ってはいない。しかし、『源氏物語』は、日本文学を代表する作品であり、これに匹敵する長編小説は、中世でも、近世でも、近代でも、見当たらないだろう、と私は思う。その大作が、書写の時代に創作されたのであるから、そのテキストの吟味は、大切であるし、伝本が少ない上に、複雑な書写経緯がからむので、それは困難を極める。

●この、大きな主題に、上原氏は、挑戦されて、その成果をこの度の新著で世に問われた。第6章「佐渡時代の大島本『源氏物語』と桃園文庫」は、私の関与する、最後の佐渡奉行鈴木重嶺とも関わっているので、興味深く拝読した。

「従来、大島本『源氏物語』は昭和五、六年の交、佐渡の某家から突如出現し、池田亀鑑の有力支援者であった三井合名会社理事・大島雅太郎の青谿書屋に収められたとのみ伝えられてきた。」

●この、佐渡から大島雅太郎の青谿書屋に伝えられた、大島本『源氏物語』の伝来の経過を綿密に追跡調査され、その内実を解明された新説は、門外漢の私にも納得がゆくし、説得力をもつものと思われる。テキスト伝来の追尋の手順は、学ぶところ大である。私は、上原氏が、この調査に際して、鈴木重嶺の関係資料を活用して下さったことに感謝している。また、佐渡の和歌の研究者、酒井友二氏の「明治の佐渡歌壇」(「文学研究」90号)に目を止められた事も納得している。

★本書の詳細 → http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm 

上原作和氏著『光源氏物語傳來史』