90歳の 水墨  中秋の名月

●今日、妻が知人から頂いたと言って、1枚の水墨画を見せてくれた。長年お付き合いをしている方で、今は90歳を過ぎたけれど、とてもお元気で、頭脳明晰、矍鑠としておられると。その薗部美峰さんが描かれた水墨だと言う。中秋の名月に、薄、萩、桔梗を配している。とても90歳とは思えない、伸びやかな筆使いである。これは、薄大好きな井関隆子へのプレゼントと、彼女の日記を開いた。

天保13年8月15日
「十五日、明くるより天気いとよし。例の月の設けの餅・果物など、取りまかなふとて、人々そそめきあへり。主、御宿直よりまかづるに、御魚・果物など、あまた也。これをくさぐさに調じ、夕付けて、打ちつどひ、盃とらむとす。前栽の薄は、今日を待てと、わざと咲き出でたるさま、うす色に匂ひ、たわたわと打ち招きたる、似るものなむなき。・・・」

「この頃、雨風が続いていて心配していたけれど、そのお返しのように、このように薄がみごとに咲いてくれました」と孫の親賢が言う。隆子も、「そうよ、この、我が家の薄がなければ、天下の今夜の月の光もなかったのよ」と、二人は戯れる。
当主の親経をはじめ、一家全員が母屋に集って、お城から頂いた御馳走を賞味しながら、中秋の名月を心行くまで楽しむ。薄・尾花が大好きな隆子にとって、至福のひと時であったと思われる。

■薗部美峰さんの月に尾花