井関隆子 小説に登場

●藤原緋沙子『切り絵図屋清七 紅染の雨』(文春文庫、書下ろし、2011年10月10日発行、定価629円+税)に、井関隆子が出てくる。主人公は武士から切り絵図屋に転向した清七。この作品は、文春文庫書下ろし第2冊目らしく、今度は、飯田町・駿河台・番町の切り絵図を作ろうと、清七たちは、九段坂下の飯田町の広い通りに面した俎板橋のたもとの料理屋「美濃屋」で打ち合わせを始める。切り絵図は、武家屋敷の現場を調べて書き込んでゆくらしい。

■「それはそうと、女将、この店の斜め向かいのお屋敷だが、井関様と申されるお旗本のお屋敷だと聞きました。井関様といえば、先代の殿さまの奥方様が、随分と博識なお方だと聞いていますが、こちらの店にも参られることがあるのですか」
 訊いたのは清七だった。
 その人は隆子という名で、和歌も詠み、本も書き、読本屋の仲間うちでは、そのうち『源氏物語』のような読本でも書かれるのではないか、などと囁かれている、と清七は以前聞いた事があった。

●こんな具合に、九段下となると、井関家の屋敷も、井関隆子も、江戸の捕物小説に登場するようになった。あるいは、もう少し長生きしていたら、隆子は『源氏物語』を現代風に書き換えた本を出していたかも知れない。

●もう35年の余も前になるが、中央大学の学生が訪ねて来て、井関隆子を小説にしたいと思う、と言われた。是非、頑張って良い作品を書いて下さい、と励ましたが、まだ、発表はされていないようである。『井関隆子日記』は、かなり完成度が高いので、馬琴のお路とは違って、むつかしいところがある。今回の藤原氏の作品は、江戸の臨場感を出すための小道具であるが、今後も、どしどし、井関隆子を使って欲しいと思う。

■藤原緋沙子『切り絵図屋清七 紅染の雨』

嘉永2年の駿河台小川町図

嘉永3年の四ツ谷絵図

■発行は、尾張屋清七