名著復刊 『百代の過客』

講談社学術文庫に、ドナルド・キーン氏の『百代の過客 日記にみる日本人』が入った(2011年10月12日発行、定価1700円+税)。名著の復刊である。この本は、1983年7月14日〜1984年4月13日に朝日新聞に連載され、1984年7月20日・8月20日に上下2冊として刊行されたものの復刊である。

●著者のキーン氏は、同書の「終わりに」で次のように述べておられる。

「これらの日記の文学的優劣を問うなら、それこそ俗にいう、ピンからキリまであるのは当然である。『蜻蛉日記』や『奥の細道』のような傑作もあれば、ただ一つのエピソード、ないしほんの数行の文章によってのみ注目に値する紀行文も多々あった。しかし私は、作品の長短にかかわらず、それらの日記のすべての中に、私が探し求めていたもの――すなわち、日記という最も私的な文学形式の中に表された、作者自身の言葉による日本人のイメージを発見し得たと思う。」

●また、「あとがき」の中では、次のようにも述べておられる。

「原稿を書き出してからもう一つの発見をした。以前からよく知っていた日記――例えば『土佐日記』『紫式部日記』または芭蕉の紀行文――について書くよりも、以前に一度も読んだことがない日記のほうが書き易かった。著名な文学作品という評判がなくても、印象が新鮮であったため、私が探し求めていた日本人論の手がかりが潜んでいた。数多くの無名の日記に面白さが発見できたことは、何よりの喜びであった。」

●このような、挑戦的な姿勢で、日本の日記を取り上げ、分析し紹介されたからこそ、全く無名の『井関隆子日記』も採用されたのだと思う。研究は、時に前例を無視し、挑戦して初めて、新しい道を切り拓くことになるのだという実例である。

講談社学術文庫 『百代の過客 日記にみる日本人』