電子書籍 か 紙の本 か

●3月6日の朝日新聞は「歩き始めた電子書籍」の特集を組み、現在までに出揃った読書向き端末を整理し、作家・荒俣宏氏の「出版ルール確立」が急務だというコメントを紹介している。

電子書籍の端末は、読書専用のものと携帯電話やパソコン機能をもつものとに大別されるが、これまで、携帯電話を活用してのコミック・ライトノベルが主流であったが、読書専用端末の開発で、文字通り、出版文化史的に、新しい時代に入ったと言えるだろう。コミツクやライトノベルを軽く見る訳ではないが、やはり、出版の根幹に関わるのは、より、本質的な出版の流れである。

●その意味では、ソニーのReaderなどに期待しているが、何しろ、まだまだ、コンテンツが少ない。内容もさることながら、電子書籍書店で取り扱う書籍は、現在流通している紙の本の88万点には遠く及ばない。昭和女子大学の中西先生は、ソニーのリーダー発売と同時に購入して、市販の電子書籍と共に、日本文学電子図書館(J−TEXTS)などのテキストをダウンロードして利用していると言う。過渡期の電子書籍の活用には、読者の立場にもよるが、このような、情報を選択して利用する知恵が、ユーザーに求められるだろう。

●3月7日の朝日新聞の文化面では、紙の本と電子書籍の共存に関連して、ハーバード大学のロバート・ダーントン教授の意見を紹介している。教授は、電子書籍の出現は、15世紀に発明された、グーテンベルク活版印刷の登場にも匹敵する変化であると指摘する。しかし、写本は18世紀まで増え続けた。「メディアと文化の変化は、そんなに劇的な二者択一ではなく、連続性がある。楽観的な私には、新しい本が生まれ、すべての種類の本と共存する豊かな景色が見える。」と述べている。

●私は、昭和女子大学で、日本の出版文化史を長年講義してきた。出版と人間の歴史には、大きな関わりがあり、興味は尽きない。ダーントン教授の意見は傾聴に値すると思う。


朝日新聞 3月6日


朝日新聞 3月7日