『井関隆子日記』の特別装丁本

●本の函の寸法について言及したので、ついでに、『井関隆子日記』の特装本について紹介したい。私は、本の装丁に関して興味を持っていたので、たまたま、栃折久美子ルリユール工房の安井康子氏と知り合い、自分の本を出した時には、特装本を作製してもらっていた。とはいえ、貧乏研究者の道楽としては、分に過ぎる所業であった。1冊でもウン10万円の世界であった。安井氏との交流を深め、オソル、オソル切り出した。で、実費で引き受けてくれることになった。こちらからの希望と製本材料(著者側からの組み込み希望の品々)を渡して、6ヶ月から1年はかかるという、その間、私は節約して費用を貯めた。

●表紙の革は仔牛の最良の部位を使用し、1頭で1冊か2冊分しか採れない由。しかも革を3色に染めて金箔(もちろん本物)の線で区切るデザイン。見返しには、天保12年の武鑑の「井関縫殿頭」の部分を拡大して、見返しの和紙の裏側から薄っすらと浮き出すようにした。上巻・中巻・下巻には、口絵として、『分間江戸絵図』の井関家の屋敷の部分、天保12年『袖玉武鑑』の井関縫殿頭の部分、天保14年の『江戸暦』の巻頭部分、をそれぞれ原本から切り取って入れた(いくら自分の所有物でも、こういう事をしてはいけない)。各巻頭には「櫻山文庫」の蔵書印を押した和紙1丁を入れ、原本の挿絵はカラー写真を並列して挿入、本文はもちろん手でかがる。ハナギレも織り込み、その模様で、上巻・中巻・下巻が分かるようになっている。しかも、このハナギレの模様は、天と地がピタリと同じでなければならない。本の断裁も、もちろん手作業。函は背丸にあわせて上下が丸く出ている。函の中には羅紗が貼られ、本を入れる時も、出す時も、一定のスピードで入り、出る。決して途中で止まらない。

●私は、特装本を、『井関隆子日記』3冊、『桜山本 春雨物語』3冊(内、第1号は鹿島則幸氏に贈呈)、『井関隆子の研究』2冊、の計8冊を作製してもらった。その他、篆刻家・冨樫省艸氏に篆刻遊印400本を刻してもらった。貧乏研究者には、分に過ぎた道楽である。

■『井関隆子日記』特別装丁本

■見返し「井関縫殿頭」が和紙をすけて見える。

天保12年『袖玉武鑑』。キャプションは、一部のみの印刷。

天保14年の江戸暦

■挿絵は、カラー写真を別丁で入れている。

■手織りのハナギレ。模様が1本・2本・3本 となっていて、上・中・下が分かる。

■函の内側には羅紗が貼られている。