『私雨』峰蔵捕物歳時記 長谷川卓 最新作

●長谷川卓の、書き下ろし最新作『峰蔵捕物歳時記 私雨』が出た(竹書房時代小説文庫、2011年1月27日発行、667円+税)。

〔捨て子の面倒を見ながら、柳原の親分こと、峰蔵が人情裁き! 江戸四季の情緒と人の情けを描いた 長谷川卓の傑作時代劇!〕(オビ)

第1話 夜鷹殺し
第2話 私雨
第3話 討っ手
第4話 夕日
第5話 お悠

の5編を収める。早速、第1話 夜鷹殺し をまず読んだ。さすが名手の新作、たちまち江戸の社会の事件に引き込まれてしまう。上手いなー、と思う。柳原の御用聞き・峰蔵は、女房の駒とともに、5人の捨て子の面倒をみている、奇特な夫婦。作者によれば、面倒をみている子供が10歳までは、町から手当てが出たという。5人のうち手当てが出るのは2人だけ。言ってみれば、慈善事業を抱えながら御用聞きをやっている主人公、泣かせる設定である。

●峰蔵の縄張りは、神田富松町と豊島町だという。第1話の殺人は柳原土手で発生した。当時の江戸切絵図を見ると、神田富松町も豊島町も柳原土手も出ている。しかし、作者は、この地図の上に、当時、ここに住んでいた、御用聞きや同心や夜鷹の元締めなどを登場させ、当時の社会のしがらみの中で生きていた人々の日々を描く。第1話には、落雁売りの伊太郎が登場する。彼は、壊れて売り物にならない落雁を長屋の子供にくれる、心の優しい御仁である。

●私は、大学を卒業した年、腰掛で桃源社の編集部にお世話になった。当時、山手樹一郎という大作家がいて、桃太郎侍が主人公の江戸小説を手がけた事がある。山手先生も江戸切絵図を使って書いているので、編集の私も切絵図をいちいち確認してミスのない本に仕上げたことを思い出した。

■『峰蔵捕物歳時記 私雨』

■江戸切絵図、嘉永6年、近吾堂版「鎧之渡柳原・・絵図」