目の果報、知の至福

専修大学と川崎の砂子の里資料館の合同企画による展覧会『江戸の文華―戯作と浮世絵―』が開催された。私は、多忙ゆえ、川崎まで出掛けられなかった。しかし、同展覧会の図録を拝見すると、展示の作品、いずれも逸品、まさに「目の果報、知の至福」である。近世初期に開発された、木版による出版、木版による絵画、最初期の頃は、印刷された文字も絵も、どこと無く稚拙であったが、元禄を経て、磨きがかかり、浮世絵は芸術の域に到達し、草双紙・読本の挿絵も技を存分に発揮している。

●今回の図録の中に、板坂則子教授の「向井コレクションについて」があり、故向井信夫氏の書籍蒐集家としての一面を知ることができた。向井氏が蒐集された約4000の和本が専修大学に収蔵されたが、その集書の姿勢は、常に初版初刷を追尋されたという。この点では、横山重先生に通じる。また、同じ作品の版本を何点も所蔵されていたという。『善知安方忠義伝』は5本、『斐弾匠物語』は3本、『児雷也豪傑譚』は5本、『白縫譚』は4本、という具合だという。これは、中村幸彦先生の教えにも通じ、向井氏の蒐集姿勢は、学問への視点が確立していたことを思わせる。それと、もう1つ、今度の図録で、向井氏の書斎の写真を拝見できたことは、まさに至福。ここに、お世話になって、蔵書を閲覧させてもらい、いろいろ、お教えを頂いた、板坂先生をはじめ、多くの研究者は、幸せ者だと思う。

図録詳細→http://www.ksskbg.com/kanabun/news2.html

■図録『江戸の文華―戯作と浮世絵―』

■向井家の書斎