伝記研究の方法

■伝記研究の方法
●私の、如儡子伝記研究は、これまで、全て〔調査報告〕となっている。これには、1つの理由がある。従来の伝記研究は、伝記関係資料を研究者が収集した範囲で、伝記として纏め上げていた。その収集は徹底したものもあるが、やや中途半端なものものもある。勿論、調査・収集は徹底することが理想である。私も、かつて、井関隆子や鹿島則孝鹿島則文などの略伝を纏める時、同様の方法を採用していた。しかし、これでは、科学として見た時、適切ではない事に気付いた。その反省の上に立って進めたのが、如儡子の伝記研究であり、〔調査報告〕とした所以である。
■明日不所求
●当然の事ながら、人間には寿命がある。これは、作者も研究者も同様である。故に、歴史上の人物の伝記を志しながら、業半ばにして世を去った人々の何と多い事か。私の伝記研究の方法は、この人間存在のアヤウサにも着目して打ち出されたものである。出来得る限り、客観的な事実を把捉したい。しかる後に、1人の人物の伝記の執筆に取り掛かりたい。しかし、我が命は、明日までかも知れない。ならば、まず、命のある限り、事実の収集をしておこう。さすれば、その事実の記録を後人が利用してくれるかも知れない。まかりまちがえば、調査も自分の思った通りに進み、自分で伝記の執筆が出来るかも知れない。
■伝記資料
 我々が過去の歴史上の人物の伝記を作成する場合、さまざまな資料を使う。その場合、重要なことは、伝記資料のランク付けをして、資料批判を加えて、その上で利用すべきであるということである。私はこれまで、井関隆子・鹿島則文鹿島則孝鈴木重嶺・飯田龍一など、歴史上の人物の伝記研究をしてきたが、その間に多くの先学の御指導を賜った。その経験と反省から、仮名草子作者・如儡子(斎藤親盛)の伝記研究の方法を模索してきた。
 私はかねがね、伝記資料を次のように区分すべきではないかと考えている。

 第一資料 過去帳・位牌・墓石
 第二資料 本人の作品・著作、自筆の記録類
 第三資料 公的記録(幕府の史料、藩の史料、市町村の記録、棟札、地図等)
 第四資料 父・子・先祖・子孫・親族・友人・知人等の関連資料
 第五資料 軍記・軍書・物語
 第六資料 その他

このように区分して、出来るだけ、各々を混合せずに活用するように努力してきた。また、伝記資料は、原資料を出来得る限り、手を加えず、資料全体を写真や翻刻で定着するように努力してきた。「如儡子(斎藤親盛)調査報告」として公表してきたのは、そのためである。出来得る限り、信頼できる資料に基づいて骨格を組み上げ、その他の資料で肉付けしたいと願っている。しかし、これは、言うは易く、実行するは、誠に大変な事で、未だに思うような水準までたどりついてはいない。