学恩に謝す

●私は、今、如儡子・斎藤親盛の「百人一首」注釈の研究をまとめていて、数日前に、『砕玉抄』(珠玉の名歌を細かく分解して説明するという意味)の本文の原稿を仕上げた。総ルビとも言える、徹底した啓蒙的な注釈書である。おそらく、百人一首注釈史上、これほどの分量で、しかも、中世以後の注釈に拘泥する事無く、自由に解説したものは、他には無いだろう。続いて、研究篇の原稿の推敲に入った。まず、野間光辰氏の次の文章に出合い、先学の学恩が胸に迫った。

■「私は最初、田中宗作氏著『百人一首古注釈の研究』(昭和四十一年九月、桜楓社発行)によってこれを知り、水戸に赴いて彰考館所蔵の写本を一見した。然るにその後、『国書総目録著者別索引』(昭和五十一年十二月、岩波書店発行)を検して、如儡子に雪朝庵・士峯の別号あること、また彼に『酔玉集』(延宝八年)と題する著作のあることも教えられ、驚喜して内閣文庫所蔵の大本十巻四冊の写本を閲覧したが、これは前記『百人一首鈔』の改稿本、如儡子の没後何人かが書写したものであった。……田中伸氏もほぼ私と同じ経過を辿って、両書の紹介と比較・検討を試みていられる(「如儡子の別号について」、昭和四十七年五月発行『近世文芸研究と評論』第二号、後『仮名草子の研究』に収む。「百人一首鈔と酔玉集」、昭和五十二年十月発行『二松学舎大学論集』所収)。」

●二人の仮名草子研究の先学が、如儡子の著作に初めて出会った時の感動が野間氏のこの文章に伝えられている。その後、百人一首の専門の研究者の研究にも出合えた。島津忠夫氏・乾安代氏の『百人一首註解』である。田中宗作・田中伸・野間光辰・島津忠夫・乾安代、これらの先学の研究を享受して、如儡子百人一首注釈の真相に、1歩でも2歩でも迫れる私は、誠に幸せである。「真理が我らを自由にする」

■田中宗作氏著『百人一首古注釈の研究』

■田中伸氏著『仮名草子の研究』

■田中伸氏著『近世小説論攷』

野間光辰氏著『近世作家伝攷』

■島津忠夫氏・乾安代氏編『百人一首註解』

■島津忠夫氏訳注『新版 百人一首角川ソフィア文庫