囲碁 ――勝負の世界――

●昨日の朝日新聞の夕刊に、懐かしい方の写真が出ていた。「朝日アマ囲碁全国大会」が今年50年を迎え、その記念大会に十傑戦最多9回優勝の菊池康郎氏をはじめ、平田博則・原田実・三浦浩の4氏を招待して18日に開幕するという。菊池氏は80歳になるが、とてもお元気そうな写真である。

●実は、もう40年も前に、私は一度だけ菊池康郎氏にお会いした事がある。お会いしたと言っても、挨拶した訳でもなく、ただ、辞典部の部屋の隣の机で、囲碁ではなく、将棋を指す菊池氏を拝見しただけである。昼休みで、皆出払って、私と倉田さんが居たが、そこに菊池氏が見えて、倉田さんと菊池氏が将棋を始めた。部屋は、一瞬、戦場と化した。静寂、殺気、ピリピリと張り詰めた空気。私は、男同士の勝負の世界を始めて体感した。後にも先にも、この時だけである。勝負が終わると、お二人は、普段の和やかな世界に戻った。菊池氏は『囲碁』の編集部に時々見えて、その時に辞典部の倉田さんの所にも回ったのだろうと、推測している。菊池氏は、物静かで礼儀正しい方であるが、十傑戦最多9回優勝という栄誉の影には、このような、勝負への毅然として、凛とした姿勢が貫かれているのだろう、そう思う。私の中で、消えることの無い人格者の1人である。

鈴木重嶺囲碁を打ったらしい。先日購入した掛軸は囲碁を詠んでいる。
 囲碁 を黒寄しつのこしまのおきの石を 打くたかむとよするしら波  重嶺

■■菊池康郎氏  朝日新聞 より

鈴木重嶺の掛軸