若葉して・・・

●桜は、今、盛んに散っている。今日は、珍しく妻が花びらを掃除していた。ふと、庭の木々に目をやると、若葉の美しさが染み入る。

「貞享五年四月、『芳野紀行』の旅で、唐招提寺に詣でてこの尊像(鑑真和上坐像)を拝した彼は、
   若葉して御目の雫ぬぐはばや  
の句を詠んでいる。それは折からの若葉を摘んで、御目のあたりに浮ぶ涙をぬぐってあげたい、というのである。・・・芭蕉はどうして涙の雫をそこに添えたのか。それはすぐれた詩人の感覚で、その温容の底に流れる無限の悲しみを看て取ったからでである。つまりそれは詩的作為にほかならなかった。だからこれも指先や布片ではなく、若葉でもってぬぐうという、詩的発想がつづくのである。またそういう手段でなければ、その折の芭蕉の感動は、現わしがたいものであったのである。・・・」(重友毅「鑑真和上坐像」)

■■庭の若葉