近世の秋 『井関隆子日記』

●昨日、出村さんの個展を観て帰り、東京駅・八重洲地下街を初めて歩いた。数十年前、名古屋駅地下街を廻って、その見事さに驚いたが、東京駅も見事な空間と先端的な町並みに感心した。その地下街には書店もあり、驚いたことに古書店さえあった。少々疲れてはいたが古書では入らない訳にゆかない。店内は綺麗で、品揃えもなかなかのもの。求めたいと思った本は3冊ほどあったが、少々重い。御愛嬌に、『日本の近世15 女性の近世』を頂いた。すでに2冊あるが、3冊有ってもいいだろう、そう思って求めた。

●平成5年(1993)に中央公論社から出た本で、関民子氏が秋の章を御執筆で「天保改革期の一旗本女性の肖像」と題して井関隆子を取り上げて下さった。原本が昭和女子大に移ってからで、口絵にたくさんの挿絵などの写真を入れてくれた。関氏のお説もみごとで、私も多くの事を教えて頂いた。この井関隆子の日記は、私が発見し、公刊したが、この作品の内実は、多くの方々の受容・批評によって解明されてきている。有難いことである。

●私は、この日記を出版するに当って、用意周到な準備をした。私の、みすぼらしい批評眼で、この作品の価値を限定しないように、十分に注意した。私は、この日記は優れている、とか、文学的価値が高いとか、一言半句も書かなかった。ただ、上巻の付記で「新しい作品」とだけ書いた。この「作品」に着目されて、「お説のように作品というに相応しいものと私も考えます」と御返事を下さったのは、この8月28日に69歳で御他界なされた、早稲田大学の谷脇理史先生である。この谷脇先生のお言葉が、どんなに励みなった事か、改めて感謝申し上げる。


■■八重洲古書館

■■『日本の近世15 女性の近世』の口絵