〔織り〕 の世界 

●今日は、久し振りに京橋まで出かけた。出村実英子氏の織展―寂光―を拝見するためである。千疋屋ギャラリーは、東京駅八重洲口からすぐの所にあった。千疋屋本店の2階である。小ぢんまりとした、落着いたギャラリーである。作品は5点。入って両側に横長の淡い淡い青みがかった作品2点。奥の正面に、天井から3点がセットになって下げられている。周りを、少し早く歩くと、その織物はふわーりとゆれる。何とも、この喧騒の現在から遊離した、世界がここにはあった。たった5点で、この空間を支配していた。

●そのうちに、出村さんが見えた。しばらく、椅子に座って、この道に入った動機や、織りの魅力を伺うことが出来た。縦糸は黒色で千本ほどあるという。イメージをデザインして横糸を染め上げる。それを一本一本織るのだと言う。髪の毛ほどの絹の糸の光沢と淡い色彩。出村さんの卒論は芭蕉の『おくの細道』であった。私は、この作品の世界と芭蕉俳諧の特色と、どこかで通い合うものがあるように思った。

●しばらくして、御主人も見えた。彼女の作品の制作には、それを支える協力者が必要であろう。出村さんは、良き伴侶に恵まれて、古都・奈良の地で、工芸作品の制作に集中できるのだろう。今日は楽しいひと時を得た。出村さんの、ますますの精進を願う。

■■出村実英子 織展 ―寂光―