激動の時代を生き抜く

●先日、知人の葬儀に伺った。佐野さんは、大正12年(1923)のお生まれだから、享年は86歳である。山梨県の硯の産地雨畑の出身で、昭和17年、県立甲府中学から中国上海の大学へ派遣された。成績優秀のため山梨県からの派遣命令が出されたという。甲府中学は現在の甲府一高である。大学在学中に学徒出陣、敗戦により大学は廃校となる。戦時中は渉外兼連絡将校として活躍、昭和21年に台湾から名古屋港に復員。戦後は、語学力を活かして多方面で活躍された。まさに、戦前・戦中・戦後を生き抜いた86年の生涯であったと拝察される。

●佐野さんは、故郷への思いも大切にされた。幼い頃に、早川の大塩不動の滝に落ちて危うく一命を落すところであったが、数人の村人に救助されたという。これもお不動さまの御利益の御蔭と、謝恩の思いを籠めて、平成6年に「厄除力不動尊」の立像を建立された。私は、その祈願文を拝見したが、見事な内容であり、また書風であった。佐野さんは信仰心あつく、仏画の作品も多く遺している。祭壇に掲げられた作品から、激動の時代を駆け抜けた、1人の尊い心が伝わってくるようであった。

■■佐野さんは各地の不動明王に参詣し、この曼荼羅を作成した。
絵も印も全て佐野さんの筆に成る

■■佐野家の菩提寺に奉納したもの

■■千葉県の滑河龍正院所蔵 神仙 
平成14年、80歳の時の敬写