詩の内容

「・・・ 詩を批評する場合、人は常にその作品のなかから作者の思想乃至観念と思われるものを抽出するのに骨を祈る。然しながら之れを以て直ちにその詩の内容と見倣す評者があるならば、彼は如何なる時でも詩の本体を見失い、真実の生命にふれることすらも拒まれるに違いない。優れた批判的精神を持った人はそれが単なる詩の素材に過ぎないことを知っている。ただ彼はこの素材を検出することに依って、その素材に作者が如何に働きかけ、或は素材が詩人に如何に働きかけたかを了会しようとするのである。この了会からして更に彼はその詩が読む人に働きかけてゆく力の生まれる源、その現れ方、在り方、及びその働き方等々等を体験し、覚ることができる手がかりを掴み得るのである。
 詩が人に働きかけてゆく力の働きそのものこそ詩の内容でなければならぬ。
竹内勝太郎
  一九三五・没」

●『黒豹』第121号、平成21年7月30日、黒豹社発行
編集発行人は諫川正臣氏。諫川氏は尼崎安四から詩のてほどきを受けた。尼崎安四の師が竹内勝太郎であった。竹内も尼崎も詩に対して、極めて厳しい批評を貫いたと言う。その伝統を黒豹の批評会は守っているという。文学に対する真摯な姿勢を教えられ、頭が下がる。私は文学研究を天職に選んだことを誇りに思う。

■■『黒豹』第121号