藤城清治の軍艦島

●昨日、朝食をしながら、テレビ朝日を見ていたら、藤城清治の影絵を取り上げていた。今、85歳だと言うのに、長崎の軍艦島を取材していた。無人の廃墟と化した瓦礫の中を、短いズボンを穿いて、ひょこひょこと歩き廻り、観察して、スケッチしていた。その後、スタジオにこもり、2ヶ月間かけて作品に仕上げた。右の人差し指と中指の間に市販の片刃のカミソリを挟んで、型紙を切り抜いてゆく。カミソリは、もはや自分の指に溶け込み、挟んだまま、タバコを吸ったり、珈琲を飲んだりする、とも言っていた。すごい、修練の賜物と芸術意欲だと感激した。

●私は、昭和39年頃、藤城氏とお会いしている。と言っても、駆け出しの編集者としてである。腰掛のつもりでお世話になった出版社で、遠藤周作の『現代の怪人物』を担当し、その装丁と挿絵を藤城氏がやってくれた。原画を頂いた時、この絵は、どのようにして、作成するのか、そのプロセスを知りたかった。しかし、若輩・駆け出しの私には、それを質問するなど、無理な話であった。45年も前の事である。

●それにしても、あの美しいメルヘンの藤城作品の世界を見守ってきた私は、今度の、広島の被爆したクスノキや長崎の軍艦島の作品を見て、偉大な芸術家の、心の底に流れる、熱いものを感じた。

■■85歳の藤城清治 テレビ朝日 から



■広島で被爆したクスノキ。焼け野原から力強く生き返った。

■本当に、軍艦のような島。これは写真。

藤城清治軍艦島


■作者の分身は、塔の上で、温かく見守っている。