永井一彰氏の労作 『藤井文政堂板木売買文書』

●永井一彰氏の『藤井文政堂板木売買文書』が日本書誌学大系の1冊として出版された(平成21年6月15日、青裳堂書店発行、22000円+税)。早速拝読したが、新資料に基づく、大変な労作である。永井氏は、平成15年10月、京都の佛光寺仮名草子『因果物語』の板木を全冊揃いで発見し、この板木から直接影印を複製し刊行された(平成17年4月1日、佛光寺版木研究保存室編)。仮名草子研究に取り組んでいる私は狂喜して、この本を手にした。近世初期の作品の板木が現在まで保存されていたという事じたい、稀なことで、この板木を通して、当時の出版の実状が推測されるからであった。

●今回の、永井氏の、A5判400頁余の労作は、現在も京都で活動している書肆・藤井文政堂に所蔵されている、出版関係、特に板木売買に関連する文書を調査・研究されたものである。軒前・板賃・引当・差入れ・売戻し・板木市・願株・焼株・重類板・板木分割・相板等々。著書を読み進める度に、近世初期が専攻の私などは、今まで知らなかった用語に出合い、驚きと共に、近世後期の出版界の様子が、理解できる。これだけの資料が保存され、膨大な板木も発見されている。さすがは、伝統の京都だと痛感する。

●永井氏の、板木を中心にした、近世出版に関する御研究は、まだまだ続くという。私達は、さらに多くの学恩を蒙ることになるが、感謝にたえない。

■■『藤井文政堂板木売買文書』
本書の詳細目次→http://www.ksskbg.com/sonota/shin.htm